中小企業の知財ガバナンス(3) 職務発明規程は「いつ」「なぜ」必要になるのか

こんにちは。
京都の弁理士・黒川です。

前回の記事では、
中小企業がまず決めておきたい
知財ガバナンスの基本項目を整理しました。

今回は、その中でも
特にご質問や誤解が多いテーマである

職務発明規程は、最初に作らないといけないのか?

という点について、
法律と実務の両面から整理してみたいと思います。

「職務発明規程がないと、会社のものにならない」?

職務発明の話になると、

  • 規程がないと特許は会社のものにならない
  • 最初に必ず作らないといけない

といった説明を耳にすることがあります。

しかし、これは
少し誤解を生みやすい言い方でもあります。

法律上の整理(特許法35条)

現在の特許法では、

  • 原則として
     → 発明者(従業員)が「特許を受ける権利」を持つ
  • ただし
     → あらかじめ定めがあれば、その権利を会社に帰属させられる

という仕組みになっています。

では、
その「定め」がないとどうなるのか

規程がなくても、会社名義の特許は取れる

実務上は、

  • 出願時に
     → 発明者から会社へ
     → 特許を受ける権利を譲渡

という形を取ることで、
会社名義での特許取得は可能です。

実際、
中小企業ではこの形で
長年問題なく運用されているケースも多くあります。

つまり、

規程がない=
直ちに会社の特許が取れない

というわけではありません。

では、なぜ職務発明規程が重要なのか

ここが本質です。

職務発明規程の役割は、

  • 出願できるかどうか
    ではなく
  • 将来のトラブルを防ぐこと

にあります。

規程がない場合、次のような問題が起こりやすくなります。

  • その発明が「職務発明」かどうかで揉める
  • 退職後に権利帰属を主張される
  • 補償の考え方が曖昧になる
  • M&Aやデューデリで指摘を受ける

どれも、
後から対応するのが難しい問題です。

「最初に必須」かどうかは、フェーズ次第

ここで大切なのは、

職務発明規程は
すべての会社に、同じタイミングで必要になるわけではない

という点です。

たとえば、

  • 発明が年に1件あるかどうか
  • 出願判断は経営者が直接行っている
  • 発明者も固定的

こうした段階では、
まずは 発明の拾い上げと判断の整理 を優先した方が、
実務的に合理的なこともあります。

一方で、

  • 発明が継続的に生まれている
  • 複数の発明者が関与している
  • 退職・異動が増えてきた

こうした状況になってきたら、
職務発明規程の整備は避けて通れません

職務発明規程は「制度」より「考え方」が先

規程を作ること自体が目的になると、
うまく回らなくなるケースも少なくありません。

大切なのは、

  • 発明は会社の活動の中で生まれるものか
  • その対価をどう考えるか
  • 誰がどこまで関与するのか

といった 考え方の整理 です。

その整理ができていないまま規程だけ作っても、
結局使われなくなってしまいます。

まとめ:職務発明規程は「必要になったとき」に、きちんと作る

職務発明規程は、

  • 法的に最初から必須ではない
  • しかし、将来リスクを考えると非常に重要

という位置づけの制度です。

だからこそ、

  • 自社のフェーズを見極め
  • 必要なタイミングで
  • きちんと設計する

ことが重要だと考えています。

次回は、
知財ガバナンスが整理されていないことで
実際にどんな問題が起きるのかを、
もう少し具体的に紹介する予定です。

🧑‍💼 黒川弁理士事務所|代表 弁理士 黒川陽一
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