【FA×知財シリーズ 第1回】FAメーカーにとっての「知財」とは何か?
― 特許だけじゃない、競争力を支える知財の役割とは ―
FA(ファクトリーオートメーション)分野は、日本のものづくりを支える中核技術です。省力化、自動化、高品質化、高効率化といったニーズに応えるため、センサ、PLC、サーボモーター、ロボット、制御ソフト、産業用ネットワークなど、さまざまな要素技術が組み合わさって一つの「ソリューション」を構成しています。
このFA業界では、新規技術の開発や製品化のスピードが企業の競争力を大きく左右しますが、それだけで差別化が成立するとは限りません。
本当に他社に対して優位性を築くには、「技術」をどう知的財産として活かすかがカギになります。
■ 私自身の経験:営業、開発、知財の現場経験から見えてきたもの
私はかつて、オムロンにてFA機器の営業、開発、知財業務の3つに携わっていました。営業・技術・知財の各担当者の立場の違いを体感しながら、現場と知財の橋渡しをする中で見えてきたのは、知財の有無が開発成果の「事業インパクト」を大きく左右するということです。
ある技術が製品化され、顧客に提供される。その裏には必ず、「その技術をどのように保護し、活用していくか」という視点が不可欠なのです。
特許を取るべきか、それともノウハウとして秘匿すべきか。他社に模倣されないようにするには何が必要か。こうした知財戦略が、事業の持続性と収益性を左右します。
■「特許=技術の見える化」と「事業優位性の盾」
FA業界では、装置や機器の多くがBtoBで提供され、取引先との信頼関係がビジネスの前提にあります。とはいえ、市場では競合とのシビアな開発競争が繰り広げられています。
そこで重要になるのが、特許という「見える化された技術の証明」です。
特許は単なる法的権利ではなく、開発の成果を外部に向けて示すための「技術広報」でもあり、「差別化の証拠資料」でもあります。
特に、以下のような場面で効力を発揮します。
- 他社が同様の製品を出そうとしているときに牽制できる
- 自社の技術優位性を顧客に示す材料になる
- 共同開発や業務提携の交渉で、自社のポジションを明確にできる
また、社内的にも特許の出願・取得プロセスは、技術の内容を整理・体系化する良い機会です。現場のアイデアがそのまま埋もれてしまうのではなく、形に残すことで、次の開発にもつながります。
■ 「出願しない選択」も立派な知財戦略
ただし、すべての技術を特許出願すべきかというと、そうではありません。むしろ、出願しないことが最適なケースも多々あります。
FA機器の世界では、制御パラメータの調整ノウハウ、試験・調整プロセス、フィールドでのトラブル対応手順、製造現場での組立冶具や治工具の設計ノウハウなど、「公開しないほうが有利」な情報もたくさんあります。
これらはノウハウ(営業秘密)として管理すべき資産です。
しかし、ノウハウは特許と違って、登録制度があるわけではなく、守るためには社内での情報管理体制や**秘密保持契約(NDA)**の整備が不可欠です。
さらに、外部の設計会社や製造委託先と連携する機会が多いFAメーカーでは、「誰が開発し、誰が権利を持つのか」という成果物の帰属問題にも注意が必要です。
■ ソフトウェア、GUI、意匠も重要な保護対象
近年では、FA機器にもユーザーインターフェースの使いやすさや視認性が求められています。GUIのデザインやアニメーション、制御ソフトの処理ロジックも、企業の「見えにくい差別化要素」として重要になっています。
例えば、
- 独自の画面遷移やアイコン配置(意匠権)
- 独自の制御手順やアルゴリズム(著作権・営業秘密)
- 特定の接続方式やプロトコル(特許)
など、それぞれの知財保護手段を組み合わせることで、模倣を困難にし、顧客のロイヤルティを高めることも可能になります。
■ 知財部がなくても、知財の視点は必要
多くのスタートアップや中小FAメーカーでは、専任の知財担当者がいないという現状があります。しかし、だからといって知財を無視してよいわけではありません。
逆に、「知財の視点があるかないか」が、事業の成否に直結するケースもあります。
- 他社に真似されやすい事業モデルだった
- 外注設計者が出願してしまい、権利を取られた
- 共同開発の契約が曖昧でトラブルになった
こういった事例は、知財の不在が引き起こす典型的な落とし穴です。
知財は「守るためのコスト」ではなく、「勝つための武器」であり、未来の成長に対する投資です。だからこそ、小規模な企業であっても、社外の専門家と連携しながら、できるところから戦略的に取り組んでいくべきだと思います。
次回(第2回)は、FA開発において「どこに特許の種があるのか?」というテーマで、センサ・制御・通信など技術領域ごとの出願ポイントを解説します。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
🧑💼 黒川弁理士事務所|代表 弁理士 黒川陽一(京都)
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