【FA×知財シリーズ 第4回】あの会社、なぜ訴えられた?― FA業界で実際にあった特許トラブル ―

特許侵害――それは、突然やってくる「ビジネスリスク」です。
特にFA(ファクトリーオートメーション)分野では、装置の構造や制御方法が似通いやすいため、知らず知らずのうちに他社特許を踏んでしまうことがあります。

今回は、FA業界で実際に起こった特許トラブルの一例をもとに、何が問題で、どう防げたのかを解説します。


■ 事例:搬送装置メーカーA社 vs 大手機器メーカーB社

ある中堅のFA装置メーカーA社は、自社で開発した**「部品搬送ロボット」**を展示会で発表。
業界内で話題となり、複数の引き合いが舞い込みます。
ところが数か月後、大手機器メーカーB社から内容証明郵便が届きます。

「貴社の搬送装置は当社特許第×××号に抵触しています。製造販売の差止めと損害賠償を求めます。」

A社が開発した搬送装置には、部品の向きを自動で補正する独自機構が組み込まれていましたが、
この技術が、B社の**“位置補正アルゴリズムとサーボ制御の連携機構”**という特許に類似していたのです。


■ A社の誤算:技術者の「独自開発」という認識

A社側の技術者は、

  • 「社内でゼロから考えた」
  • 「他社製品を参考にしていない」
  • 「使っている機構は一般的なもの」

と主張していましたが、B社特許の請求項に照らすと、ほぼ同一の構成を含んでいたことが発覚。
A社は泣く泣く、製品の設計変更と展示会パンフレットの差し替えを行う羽目になりました。


■ このトラブル、なぜ防げなかったのか?

A社のようなケースでは、主に次のような要因が挙げられます:

  1. 出願前の特許調査をしていなかった
     ⇒ 技術的には独自でも、特許的には他人の権利領域と重なる可能性がある
  2. 知財部門が存在せず、調査や判断が現場任せ
     ⇒ 技術者は特許の請求項の「読み方」に慣れておらず、リスクを見落としがち
  3. 製品化のスピードを重視しすぎた
     ⇒ 検討時間を削減し、トラブルの芽を見逃していた

■ 特許侵害リスクを回避するための3つのポイント

① 類似技術の特許を“先に見る”

開発着手時や仕様確定前に、先行技術調査を行いましょう。
特許庁のJ-PlatPatなどの無料ツールでも、基本的な検索は可能です。

「キーワード検索+図面をざっと見る」だけでも、危険な特許のあたりは付きます。

② 特許の「請求項」を読むクセをつける

「何が保護されているのか」は、**請求項(クレーム)**を見なければわかりません。
構成が似ているから侵害、というわけではなく、技術的思想の要点が一致しているかが問われます。

設計者・技術者にこそ、クレーム読解力が求められる時代です。

③ 外部の知財専門家に早めに相談する

社内に知財部がなくても、外部の弁理士や知財コンサルと定期的に連携すれば、
リスクを最小限に抑えることができます。
「出願すべきか否か」「他社特許に触れているか」などの判断を客観的にチェックできます。


■ “知らなかった”では済まされない

特許侵害は、意図がなくても責任を問われることがあります。
特にFAのような装置・制御系分野は、類似性が生まれやすく、トラブルも起きやすいのが特徴です。

だからこそ、開発現場の意識変革と、早期の知財介入が重要です。
設計に自由をもたらすのが知財戦略であり、逆にそれがなければ、足かせにもなり得るのです。


次回予告

次回(第5回)は、「FA機器と意匠権:機能だけじゃない“デザイン”の保護」をお届けします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!


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