【FA×知財シリーズ 第5回】FA機器と意匠権:機能だけじゃない“デザイン”の保護
― 使いやすさとブランドを守る、もう一つの知財戦略 ―
FA(ファクトリーオートメーション)業界では、「技術力」が重視される世界です。
しかし、装置の見た目や使い勝手といった“デザイン”もまた、顧客の選定理由の一部になっていることをご存じでしょうか?
BtoCではなく、BtoBのFA機器も、その企業のらしさを表現し、顧客に価値を伝える重要な要素となっています。
今回は、FA機器と意匠権の関係について解説します。特許や商標ほど注目されにくい意匠権ですが、意匠こそ、ブランドとユーザビリティを守る最後の砦になることがあります。
■ 意匠権とは?~見た目の“工業的な美しさ”を守る権利
意匠とは、**物品の形状・模様・色彩などの「外観デザイン」**を指します。
FA機器でいえば、操作パネルのレイアウト、筐体の形状、表示ランプの配置なども意匠の対象になり得ます。
区分 | 特許 | 意匠 |
---|---|---|
保護対象 | 技術的な仕組み・動作 | 形状や見た目(審美性+視認性) |
保護の範囲 | 構成要件の技術的範囲 | 外観の類似性 |
保護期間 | 出願から20年 | 登録から25年(改正により延長) |
■ FA業界での意匠が重要になるケース
意匠というと「家電」や「家具」の話と思われがちですが、FA業界でも意匠が効いてくる場面があります。
◉ 操作性・使いやすさの差別化
- 操作パネルのアイコンやボタン配置
- タッチパネルUIのレイアウト
- 視認性に優れたランプの並び方
特に、多品種少量生産や熟練工以外の作業者が操作する場面では、**「誰にでも使いやすい装置」**が選ばれます。
◉ ブランドの視覚的統一感
- 複数シリーズで同じデザインの操作部
- 色調や形状で企業イメージを表現
これにより、**「あの形を見れば●●社製とわかる」**という一種のブランド価値が形成されます。
■ 意匠登録していなかったことで起きた実例
あるFAメーカーA社は、特徴的なデザインのPLC機器を開発しました。
ところが、競合B社がほぼ同じデザインのPLC機器を販売。
特許は出願していましたが、意匠出願はしておらず、「見た目のコピー」に法的対抗手段を持てなかったのです。
→ 意匠登録していれば、「形状の類似」で排除できた可能性がありました。
■ 意匠登録のヒント:どこまで保護できる?
意匠は、全体の見た目だけでなく、部分的なデザインも登録できます。
たとえば:
- 「パネル全体」ではなく「表示部のみ」の意匠
- 「筐体の一部形状」だけを抽出した意匠
- 複数の意匠をまとめて出願する「関連意匠制度」の活用
これにより、競合に“そっくりな部分だけ真似される”ことを防ぐことができます。
■ 特許・商標・著作権との役割の違い
項目 | 特許 | 意匠 | 商標 | 著作権 |
---|---|---|---|---|
何を守る? | 技術的な仕組み | 見た目(形・模様など) | ロゴ・ネーミング | 表現(図面・説明書など) |
保護手段 | 出願・審査 | 出願・審査 | 出願・審査 | 自動的に発生 |
FA製品では、意匠と商標の併用で、製品イメージをダブルで守ることも可能です。
■ 実務上のポイント
- 製品開発段階で、図面や3Dデータを意匠登録用に再利用できるように準備
- 商標戦略との連動で「見た目と名前を一体で守る」
- 展示会やカタログ公開前に出願を済ませる(先に公開すると登録不可になる場合あり)
■ まとめ:FA業界でも重要性が増している、意匠
見た目や使いやすさの差別化は、「中身が良ければ売れる」という技術者の常識に反して、実は市場競争の決定打になることがあります。
FA企業こそ、機能+デザインの両面から製品を設計し、知財で守っていく発想が必要です。
次回予告
次回(第6回)は「FA製品のブランド戦略と商標の活用法」をテーマにお届けします。
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