ものづくり白書2025年版がリリース ― 経営者が押さえるべき最新動向と知財・経営戦略 ―
導入
弁理士の黒川陽一です。
2025年版「ものづくり白書」が経済産業省より発表されました。
本白書は、日本の製造業を取り巻く環境の変化、今後の成長戦略、そして国の政策支援を網羅的にまとめたものです。スタートアップや中小企業の経営者にとっても、自社の現状や将来の方向性を考える上で非常に有用な情報が詰まっています。
今回は、知的財産の視点にとどまらず、経営全般の観点から、白書の注目ポイントを解説します。
1. ものづくり白書とは?
「ものづくり白書(正式名称:ものづくり基盤技術の振興施策に関する年次報告書)」は、製造業の実態や課題、政策の成果と今後の方向性を示す国の年次報告書です。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省連名で発行され、国会にも提出されます。
中小企業やスタートアップにとっては、自社の将来に直結する政策の方向や、他社の取組事例、支援制度などを把握する重要な参考資料です。
2. 2025年版白書の主なポイント
2025年版の「ものづくり白書」では、日本の製造業を取り巻く急速な環境変化と世界的な構造転換を背景に、今後の成長のために取り組むべき政策や経営戦略が多角的に示されています。本白書は、単なる過去の報告や統計ではなく、未来志向の政策提言と、実際に企業が行動に移すべきヒントが豊富に含まれています。以下、注目すべき5つの柱について詳しく見ていきましょう。
(1) 製造業の構造変化とグローバル競争への対応
日本の製造業は、高度経済成長期から続く伝統的なモノづくり文化に支えられながらも、今やグローバル市場における価格競争、品質競争、スピード競争という多層的な競争に直面しています。とりわけ、製造拠点のアジア諸国への移転や現地企業の台頭により、従来の「高品質=日本製」というブランドが薄まりつつあるという現実があります。
白書では、こうした状況に対応するために、日本企業が持つ“現場力”や“改善力”に加えて、データやサービスを活用したビジネスモデルへの転換、いわば「製造業のサービス化(Servitization)」が重要であるとしています。単にモノを売るのではなく、ユーザーに価値を提供し続ける「顧客との継続的な関係性の構築」が企業の持続可能性を左右する時代に入っています。
たとえば、製造業がITベンダーや物流業者と連携し、提供価値を統合する形での共創ビジネスが提唱されています。これは、中小企業にとっては業種の垣根を超えて価値を高めるヒントになるでしょう。
また、BtoB企業においても、顧客の課題解決を起点とする提案営業力や、納品後のサポート体制の強化が差別化要因となっており、製品のスペックだけで勝負する時代は終わりを迎えています。経営戦略としての“ソリューション化”が求められているのです。
(2) 人材不足・賃上げ・リスキリング
人手不足は、もはや一過性の問題ではなく、構造的課題です。とりわけ中小企業では、熟練工の高齢化と若年層の製造業離れが同時に進行しており、事業継続が危ぶまれるケースも出始めています。
こうした中で、単なる新卒採用や給与引き上げでは根本的な解決に至らず、「人が辞めない会社」「人が育つ会社」への転換が求められています。白書では、特にリスキリング(再教育)の重要性が強調されており、社員が自ら学び、企業もそれを支援する「学び直しの文化」が企業価値の基盤になると説かれています。
リスキリングとは、新しい分野の知識やスキルを獲得するだけでなく、従来の業務にデジタルや経営視点を加える意味でも非常に効果的です。たとえば、製造現場のリーダーがデータ分析スキルを持てば、歩留まり改善や設備稼働率の向上に直接つながります。経営者自身が「学びのロールモデル」となり、学習文化を社内に根づかせることが期待されます。
(3) DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
DXは単なる業務のデジタル化ではなく、「経営のあり方そのものを変える」プロセスです。白書では、経営層が自らデジタルに理解を持ち、ビジョンを描き、社内に浸透させる重要性が指摘されています。
中小企業経営者にとって、まず重要なのは“できるところから始める”ことです。すべてを一気に変えるのではなく、見積書のデジタル化、在庫管理のクラウド化、遠隔商談の導入など、身近なところからの変革が継続的な進化へとつながります。
また、DXを実現するには社内の風土改革も不可欠です。失敗を恐れず挑戦できる環境や、現場からのアイデアを吸い上げる仕組みなど、企業文化の整備が技術導入以上に重要とされています。加えて、顧客との接点にもDXを導入し、顧客体験(CX)を高めることも、売上や信頼構築に直結します。
(4) GX(グリーントランスフォーメーション)の加速
GXは「環境のために仕方なくやる」ものではなく、「競争優位を得るチャンス」と捉えるべきです。白書では、脱炭素やエネルギー最適化が経営の中核テーマとなりつつある現実を踏まえ、今後の企業評価においても「環境対応力」が一つの基準となることが明記されています。
中小企業にとっては、自社でできる取り組み(LED照明や高効率モーターの導入など)から始め、補助金や専門家支援を活用して段階的に進めていくことが推奨されています。これらの活動は取引先との信頼構築や、採用面での企業イメージ向上にも寄与します。
さらに、環境性能の高い製品やプロセスの開発を通じて、新市場の創出や海外展開の糸口をつかむ事例も増えています。GXは単なる「守り」の対応ではなく、「攻め」の経営に直結する成長領域となってきているのです。
(5) 経済安全保障とサプライチェーンの強靱化
グローバル情勢の不安定化により、「いざというときに事業を止めない仕組み」が中小企業にも求められています。白書では、特に重要な製品・部品・技術を守る視点から、調達先の分散化、国内生産回帰、社内の技術管理体制の強化が呼びかけられています。
経営者にとっては、取引先への過度な依存を避け、代替ルートの確保やリスク対応マニュアルの整備が、今後の事業存続を左右する大きな要因となります。防災・BCP(事業継続計画)と同様に、経済安全保障も“備え”が差を生む領域です。
また、原材料価格の高騰や輸送費の増加に対応するためのコスト構造の見直し、サプライヤーとの協力体制の再構築なども、経営課題として顕在化しています。経済安全保障は国策であると同時に、企業の“現場”に根差した経営リスク管理の問題でもあるのです。
3. 中小企業が知財を「経営戦略のツール」として活用するヒント
白書が示す各課題に、知財戦略は深く関わっています。知財を単なる「権利」ではなく、「攻めの経営」「守りの経営」を両立させるための戦略的なツールとして捉えましょう。
- 「攻め」の知財活用
- 新技術・サービスは積極的に権利化: DXで生まれたデータ解析技術、GX関連の新素材や省エネ技術、サービス化のビジネスモデルなど、貴社独自の強みは特許、実用新案、デザイン(意匠)、商標などでしっかり権利化し、競合優位性を築きましょう。
- ブランディングと知財: 貴社の商品名やサービス名、ロゴは商標登録することで、ブランド価値を高め、顧客からの信頼を獲得します。
- 知財を武器にした連携: 他社との共創や提携の際に、貴社が持つ知財を明確にすることで、交渉を有利に進め、ライセンス供与による新たな収益源も期待できます。
- 「守り」の知財活用
- ノウハウの徹底管理: 製造プロセスや顧客データなど、公開したくない技術情報や経営情報は、営業秘密として厳格に管理する体制を整えましょう(アクセス制限、秘密保持契約の締結など)。
- 契約の強化: 海外企業との取引や共同開発の際は、知的財産権の帰属や秘密保持に関する契約条項を強化し、技術流出リスクを最小限に抑えましょう。
- 模倣品対策: 貴社の製品や技術が模倣された場合に備え、権利侵害への対応策を事前に検討しておくことが重要です。
- 公的支援の積極活用
- 知財出願費用への補助金制度や、特許庁、自治体による知財専門家の派遣制度など、中小企業向けの支援策は多数存在します。ぜひ、活用できるものは積極的に活用ていきましょう。
まとめ:白書から何を学び、どう動くか?
2025年版「ものづくり白書」は、単なる報告資料ではなく、経営戦略のヒント集です。スタートアップ・中小企業の経営者にとっては、国の動きを読み、自社に落とし込むことで競争力を高めるチャンスです。
「人」「デジタル」「環境」「リスク対応」そして「知財」。
これらの要素をバランス良く経営に取り入れることが、これからの成長企業の条件だと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
🧑💼 黒川弁理士事務所|代表 弁理士 黒川陽一(京都)
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