【FA×知財シリーズ 第3回】ノウハウか?特許か?― FA開発における秘匿と公開の判断基準 ―

FA(ファクトリーオートメーション)業界では、他社との差別化につながる重要技術を社内に抱えている企業が多くあります。しかし、その技術を「特許として出願するか」「社内ノウハウとして秘匿するか」は、知財戦略上きわめて重要な判断です。

今回は、FA分野において特に悩ましい**「特許 vs ノウハウ」**の選択について、判断基準や留意点をお伝えします。


■ まず整理:「特許」と「ノウハウ」の違いとは?

項目特許ノウハウ(営業秘密)
保護手段権利(特許権)として公的に保護秘匿による自衛(不正競争防止法など)
公開の有無出願後18か月で原則公開非公開(社内管理に依存)
保護対象公知でない発明(構造・方法など)技術・知識・工夫など幅広い内容
保護期間原則20年(実用新案は10年)理論上、無期限(管理次第)
侵害対策差止・損害賠償が可能漏洩元の特定と証拠が必要

ポイントは、“公開してでも保護したい技術かどうか”という観点です。


■ 特許にすべき技術:他社が模倣しやすい機構・動作原理

FA製品は、実機を見れば構造や制御方法の一部が推測できてしまうものが少なくありません。

たとえば、

  • センサの配置と検出ロジック
  • PLCの入出力制御タイミング
  • 異常判定や動作切替のアルゴリズム

これらは、製品を購入・解析されれば、他社に模倣されるリスクが高い技術です。
このようなケースでは、「秘密にしておく」よりも、特許として公開しつつ排他権で守る方が賢明です。


■ ノウハウにすべき技術:ブラックボックス的な工夫

一方で、次のような技術は、ノウハウとして社内に秘匿しておくことが効果的です。

  • 自社工場での量産条件(温度、速度など)
  • センサキャリブレーションの初期設定値
  • データ補正アルゴリズムのパラメータチューニング方法

これらは、製品から外部に“見えにくく”、かつ再現が困難な要素です。
仮に特許出願して内容を公開してしまうと、逆に他社に手の内を明かしてしまうリスクがあります。


■ 境界線が曖昧な技術:ハイブリッドな戦略もあり

例えば、

  • 異常判定アルゴリズムの基本ロジックは特許出願し、
  • 具体的な閾値や補正値の設定方法は社内ノウハウとして秘匿する

というように、一部を特許、残りをノウハウとする「ハイブリッド管理」も有効です。
FA開発では、アルゴリズムや動作の中身に“可変パラメータ”が含まれることが多いため、こうした分割管理は現実的です。


■ 社内ノウハウを「守る仕組み」がなければ意味がない

ノウハウとして保護する場合、情報管理の体制づくりが不可欠です。

  • 技術資料のアクセス制限・持ち出し管理
  • 退職時の誓約書や秘密保持契約の整備
  • 部門間の情報共有ルールの明確化

これらが整備されていなければ、ノウハウは簡単に流出してしまいます。
特許は公開される代わりに法律で守られますが、ノウハウは「自衛」による保護が前提である点を忘れてはいけません。


■ FA開発における判断フロー(簡易版)

以下のような観点で判断すると、特許とノウハウの判断がしやすくなります。

① 他社に模倣されたときに困るか? → Yes → ②へ
② 模倣が容易にできる内容か? → Yes → 特許で保護
               → No → ノウハウとして秘匿
③ 製品から技術内容が推測できるか? → Yes → 特許化検討
                 → No → ノウハウでもOK






■ スタートアップ・中小企業こそ、差別化技術は“選んで守る”

大企業のように大量出願することが難しいスタートアップ・中小企業では、**知財にコストをかける技術の“選定する眼”**を持つことが重要となります。

FA開発の現場では、何気ない工夫が将来的に製品の命運を分けることもあります。
だからこそ、特許にすべきか、ノウハウで守るべきかを意識的に見極めることが、知財戦略の出発点になります。


次回(第4回)は、「あの会社、なぜ訴えられた? FA業界で実際にあった特許トラブル」をお届けします。


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