スタートアップ・中小企業の経営者へ──未来を変える“知財と無形資産の開示”とは?
~中小企業・スタートアップのための「企業成長の道筋」解説~
2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂をきっかけに、企業における「知財・無形資産」の開示が注目を集めています。
これは一部の上場企業だけに関係する話ではありません。中小企業やスタートアップにとっても、知的財産やブランド、技術、人材などの「見えにくい資産」をどう把握し、どう伝えるかは、今後の成長戦略に大きな影響を与える要素となっています。
なぜ「知財・無形資産の開示」が求められているのか?
背景には、日本企業の株価やROE(自己資本利益率)の低迷がありました。これを打破するため、政府は企業統治(コーポレートガバナンス)の強化に乗り出し、2015年に「コーポレートガバナンス・コード」を策定。そして2021年には、「知財・無形資産への投資について情報開示すること」が補充原則として加えられました。
つまり、「何に投資して、どう成長していくのか」を明確に説明する中で、知的財産や人材、ブランドといった無形資産が、今や経営戦略の中核として位置づけられているのです。
形式だけでは意味がない――中身が問われる時代へ
しかし、現実には知財・無形資産の開示が「形式的な対応」にとどまり、具体的な内容に踏み込めていない企業が少なくありません。
「開示の仕方がわからない」「経営戦略と結びつけられない」といった声も多く、結果として、投資家やステークホルダーとの対話が深まらない――というジレンマが生まれています。
投資家や関係者との“対話”が鍵
調査によると、知財・無形資産の内容をしっかりと開示している企業ほど、投資家との対話が活性化し、外部からの有益なフィードバックを得て、企業価値の向上に成功していることがわかっています。
投資家は単に「利益」だけを見ているわけではありません。
企業が「どんな知財を持ち」「何を強みに」「どのような成長ビジョンを描いているのか」に注目し、質問や評価を行っています。
つまり、知財・無形資産の開示は、「社内外との対話を生み出すきっかけ」であり、「経営のブラッシュアップの材料」なのです。
中小企業・スタートアップにとっての実践ステップ
では、スタートアップや中小企業が、どのようにして知財・無形資産を整理し、開示につなげていけばよいのでしょうか?
特許庁の『企業成長の道筋』でも提案されているように、以下の3つの要素を意識して整理・言語化することが、実践的な第一歩となります。
① 成長ビジョン
自社が将来どのような企業になりたいのか、社会にどんな価値を提供していきたいのか。
つまり、ビジネスを通じて解決したい「社会課題」や「顧客の悩み」を、明確に表現することが重要です。
例:
- 「すべての高齢者が安全に暮らせる社会をつくる」
- 「中小製造業でも使いやすいAIツールを提供する」
- 「伝統技術を次世代に継承し、世界市場で価値を生み出す」
このようなビジョンは、単なるスローガンではなく、事業活動の根拠や方向性を説明するための軸になります。
投資家や取引先が、その企業の将来性や共感性を判断する材料にもなります。
② ビジネスモデル
そのビジョンをどのような仕組みで実現するのか。
ここでは、技術、サービス、販売チャネル、パートナーとの連携、人材戦略など、自社の事業構造をできるだけ具体的に示すことが求められます。
例:
- 独自開発したセンサー技術を、OEM提供と自社製品で展開
- 顧客データを活用したサブスクリプションモデルでリカーリング収益を確保
- 大学との共同研究を通じて新素材を開発し、特定業界に特化した販売戦略を展開
知財や無形資産は、このビジネスモデルの中にどう組み込まれているかを示すことで、企業の競争力や再現性を裏付けるものとして機能します。
③ 強み(無形資産)
自社が他社と何によって差別化できているのかを明確にするステップです。
ここでは、特許やノウハウ、商標・意匠といった知的財産はもちろん、組織文化、人的資本、ブランド、顧客基盤、独自の工程やデータ活用なども含め、**「目に見えにくい資産」**を言語化していきます。
具体的な視点:
- 保有特許や技術ノウハウ(模倣困難性)
- ブランドやデザイン(顧客からの信頼)
- 社内に蓄積された開発力や人材育成のノウハウ(人的資本)
- ユーザーとの継続的な対話から得られるフィードバックループ(関係資本)
これらの強みは、ビジネスモデルの実行力を支える土台であり、企業の持続可能性や拡張性を評価する基準として、外部ステークホルダーにとって重要な情報となります。
この3点を整理・言語化することで得られる効果
こうして整理された成長ビジョン・ビジネスモデル・強みは、次のような場面で大きな武器となります。
- 投資家との面談やピッチ資料において、企業価値や事業の信頼性を効果的に伝えられる
- 金融機関や自治体など、支援機関とのコミュニケーションが円滑になり、補助金や融資で優位に立てる
- 採用や社内教育の場面で、自社の価値観や目指す方向性を共有し、共感をベースにした組織づくりができる
中小企業・スタートアップにとって、知財開示とは単に「情報を出す」作業ではありません。
自社の未来像と強みを戦略的に描き出す、経営の核心に関わる取り組みなのです。
「知財は経営資源」――中小企業こそ意識したい視点
スタートアップや中小企業こそ、特許やノウハウ、ブランド、社員の専門性といった**「無形資産」に支えられて事業を展開している**ものです。
これらの無形資産を丁寧に棚卸しし、経営戦略と結び付けて説明できるようにすることで、融資や出資の場面、協業の交渉においても、説得力と信頼感を持った対話が可能になります。
経営者自身が、自らの知財や無形資産を**「価値ある経営資源」として捉えること**こそが、持続的成長の出発点です。
私自身、かつて上場企業の知財部に所属していた経験があり、コーポレートガバナンス・コードの改訂を契機として、企業における**「知財・無形資産の開示」をどのように進めるべきか**というテーマに関わっていました。
もし、「知財・無形資産」の開示を通じて企業の成長をアピールしたいとお考えの経営者の方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
🧑💼 黒川弁理士事務所|代表 弁理士 黒川陽一(京都)
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