著作権シリーズ:第7回 著作権と契約書 — 制作物に関する取り決めの注意点とは?

――著作権譲渡・利用許諾契約の基本と、契約書に盛り込むべきポイント

パンフレット、ロゴ、WEBサイト、社内マニュアル、動画…
外部のデザイナーや制作会社に依頼して作ってもらった「制作物」。

「お金を払って作ってもらったのだから、自由に使ってもいいはず」と思っていませんか?
実は、著作権が誰にあるのかを明確にしないまま進めると、あとで思わぬトラブルになることがあります。

本記事では、著作権と契約書の関係について、基本的な考え方と実務のポイントを解説します。

お金を払っても「著作権」は移らない?

多くの方が誤解しているのがこの点です。

💡 著作権は、契約で明確に譲渡されない限り、「制作者」に帰属します。

つまり、報酬を支払っても、

  • 著作権はデザイナーや制作会社にあり、
  • 依頼者は「使用できる範囲」しか持たない

というケースが珍しくありません。

契約書がないと、どうなる?

契約書がないと、以下のようなトラブルの火種になります。

❌ 想定外の利用ができない

たとえば、Webサイト用に発注した画像を、後でパンフレットにも使おうとしたところ…
⇒ 制作会社から「別用途なので、追加料金が必要」と言われることも。

❌ 途中で利用を制限される

納品された後、制作者が「自分のポートフォリオに使いたい」と無断公開。
⇒ 機密性の高い資料や未発表の商品が含まれていたら大問題です。

❌ 改変や二次利用ができない

制作物のデザインや内容を自社の都合に合わせて修正したり、別の派生的な制作物に利用したりしようとしたところ…
⇒著作権者の許可なしにはできない場合があります。

「譲渡」と「利用許諾」の違いとは?

契約形態には、大きく分けて2つあります。

契約形態内容制作者の著作権依頼者の著作権
著作権譲渡契約著作権そのものを依頼者に移す消滅著作物を独占的に、自由に利用・改変・二次利用できる(著作者人格権は別途考慮が必要)
利用許諾契約制作者に著作権は残したまま、使う許可を与える残る契約で定められた範囲内で制作物を利用できる(利用目的、期間、地域、改変の可否など)

どちらを選ぶかは、使いたい範囲や将来的な活用の自由度に応じて選ぶのが基本です。

契約書に盛り込むべき5つのポイント

著作権譲渡・利用許諾契約では、以下のような事項を明確にしておくことが重要です。

① 著作権の帰属(譲渡か、利用許諾か)

  • どちらの契約形態にするのかを明確に記載します。
  • 著作権譲渡の場合は、「著作権法第27条(複製権、上演権、上映権、公衆送信権、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権)及び第28条(翻案権等)に定める全ての権利を含む」といった具体的な権利範囲を明記することが望ましいです。

② 利用範囲・期間・地域(利用許諾の場合)

  • どの媒体(Webサイト、パンフレット、SNSなど)で、どの地域で、いつまで利用できるのかを具体的に記載します。

③ 改変の可否

  • 制作物のデザインや内容を加筆、修正、翻案(アレンジ)することが可能かどうかを明確にします。

④ 再利用・再委託の可否

  • 制作物を他のプロジェクトに流用したり、第三者に再委託して利用させたりすることが許されるかどうかを定めます。

⑤ 著作者人格権の不行使条項(著作権譲渡の場合)

  • 著作権が譲渡された場合でも、制作者には著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権など)が認められています。依頼者が制作物を自由に利用・改変できるように、著作者人格権を行使しない旨を制作者に約束させる条項を盛り込むことが望ましいです。

スタートアップ・中小企業の経営者が注意すべき点

スタートアップや中小企業では、制作物の外注も多く、以下の点に特に注意が必要です:

「契約書なし」で制作を進めない
→ 口頭での合意だけでは、著作権の取り扱いが曖昧になり、後々大きなトラブルに繋がる可能性があります。必ず書面で契約を締結しましょう。

契約書を交わしても、雛形を使い回している
→ インターネットなどで入手した雛形をそのまま使用すると、著作権に関する条項が自社のニーズに合致していない場合があります。専門家のチェックを受けることを推奨します。

成果物を別の用途で使いたくなるケースが多い
→ 将来的にWebサイトだけでなく、SNSや展示会、広告など、多様な媒体で利用する可能性がある場合は、著作権譲渡契約を結ぶか、包括的な利用許諾を得ておくことが望ましいです。

➡ トラブルになってからでは遅いので、「納品前」にしっかり契約を取り交わすことが重要です。

まとめ:制作物の契約は「最初が肝心」

注意点理由
✅ 著作権の所在を明確にするトラブルの予防になる
✅ 利用範囲・期間を具体的に書く意図せぬ制限を避けられる
✅ 改変・再利用の可否を決める柔軟な活用のために必要
✅ NDAと併用して秘密を守る情報漏洩リスクに備える

制作物は、「目に見える成果」だけでなく、法的な権利関係まできちんと整理することで、はじめて「安心して使える資産」になります。

📘 次回(第8回)は、
フリー素材・AI生成物の正しい使い方──『商用利用可』でも注意すべき著作権の落とし穴とは?
について解説する予定です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!

🧑‍💼 黒川弁理士事務所|代表 弁理士 黒川陽一(京都)
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