【FA×知財シリーズ 第8回】FA機器におけるライセンスと知財収益化の可能性
― 守るだけでなく“稼ぐ知財”へ
FA(ファクトリーオートメーション)機器における知的財産(知財)は、これまで「模倣防止」「差別化の武器」としての役割が重視されてきました。しかし近年、特許やノウハウを他社に“使わせて収益を得る”ライセンス戦略が、中小企業・スタートアップにとって現実的かつ有効な経営手段となりつつあります。
今回は、FA分野における知財の「収益化」に焦点を当て、ライセンス戦略の可能性について解説します。
■ 「守る知財」から「稼ぐ知財」へ
特許は「権利を主張して守るための手段」であると同時に、「技術を使わせて収益を得るための手段」でもあります。自社で製品化できない場合でも、優れた技術を保有していることそのものが、ビジネスチャンスとなるのです。
特にFA業界では、部品単位での技術革新が多く、ニッチでありながら他社にとって有用な要素技術が多数存在します。このような技術を他社に提供し、ライセンス料やロイヤルティという形で収益化することで、開発投資の回収や新たな研究開発の資金源に繋がります。
■ 中小企業によるライセンスビジネスの成功例
ある中小企業A社は、センサー制御に関する革新的なアルゴリズムを開発し、それを特許化しました。A社自身は製造設備を持っておらず製品化には至りませんでしたが、技術展示会で大手FAメーカーと接点を持ち、技術ライセンス契約を締結。年間数千万円規模のライセンス収入を得ています。
この事例では以下の点が成功の鍵となりました:
- 技術の差別化ポイントを明確化し、特許として保護
- 技術を第三者に伝えられる資料の整備(技術概要、用途例など)
- 交渉時に使用範囲や地域、独占性の条件を柔軟に調整
「開発したが製品化できなかった」ではなく、“技術の出口”としてのライセンス展開が有効に機能した好例です。
■ サブスクリプションモデルとの相性
近年のFA機器では、ハードウェアだけでなくソフトウェアやクラウドとの連携機能を持つ製品が増えています。これにより、月額課金などのサブスクリプション型のビジネスモデルが導入されやすくなりました。
このようなモデルでは、知財活用の視点も変化します。
- ソフトウェア:著作権+ライセンス契約管理
- UIデザイン:意匠権の取得と第三者による模倣対策
- データ処理ロジック:特許化またはノウハウとして秘匿管理
さらに、ユーザーが利用を続ける限り継続的に料金が発生するビジネスモデルにおいては、“ライセンス契約の明確さ”や“更新時の交渉”が収益の安定性を左右します。契約書の整備も、知財戦略の一環として非常に重要です。
■ 知財の収益化に取り組む上での実務ポイント
FA中小企業が「稼ぐ知財」を実現するためには、以下の実務対応が有効です:
- 特許出願の段階で市場性を意識する
―「自社が使う技術」ではなく「他社が使いたくなる技術」を想定して権利化 - 提案資料を整備する
―第三者に技術を理解してもらえる説明資料(応用例、コストダウン効果など) - 弁理士・弁護士と連携した契約書の作成
―ライセンス契約では、収益条件、期間、範囲、責任の所在などを明記 - パートナー企業の発掘と展示会での情報発信
―FA系展示会や業界紙などで自社技術の露出を高め、ライセンシー候補と出会う
■ 守りの知財から、攻めと収益の知財へ
中小企業やスタートアップにとって、知財はもはや「守るだけのコスト」ではありません。**技術を価値に変える“収益資源”**として、積極的に活用すべきです。
FA業界では、既存企業が持つ設備や販路を活かし、自社の知財で新たな利益の流れを生み出すパートナーシップが可能です。知財を軸としたオープンイノベーションの実現に向けて、まずは自社の強みを見つめ直してみてはいかがでしょうか。
次回予告
次回(第9回)は「FAスタートアップ・中小企業のための知財戦略の立て方」をお届けします。
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